うつ病(躁うつ病)

現在の精神医療の現場において、『うつ病』と言うのは非常に広い疾患概念を含む時代となっています。具体的には「特に理由がない形で精神的な活動が停滞し、意欲や興味が減退する状態」を=(狭義の意味での)『うつ病』と判断される事が多いです。
一方で我々人間は感情を持った動物ですから、例えば経済的な理由他にも人間関係その他の理由などから、意欲が減退し精神的な活動が停滞することは遭遇するものです。これらは上記に挙げた(狭義の意味での)『うつ病』と異なる「うつ状態」と判断される事は多いですが、共通する部分も似ていて否なる部分も相応に多く、その判断に迷うことは少なくありません。(我々のような専門医でも、これらの厳密な違いを早い段階で見分ける事は甚だ困難ではあると私的には考えております。)
多くの患者様のケースでは、当初より治療計画の中にどちらが主体か思い描くことが多いですが、診療時間の積み重ねが少ない、初診時の段階でこれらを厳密に見極めることは困難な事が多いです。また体の病気と異なり、治療手段(主に薬物療法)が疾患毎に決まるわけではなく病態像によって決まることが多いことも、混沌とした精神科医療の側面である事は否めないと思います。現実的な短期的な治療目標をどこに置くか、また併発する生活上の問題は何かなどをアドバイスしていくことになります。

うつ病とは

うつ病とはうつ病は脳の機能障害が起きている状態で、脳神経細胞間で情報を伝達する物質が不足して生じるとされています。脳は心身全体をコントロールしているため機能障害が起こるとさまざまなトラブルを起こします。
厚生労働省の調査では、うつ病の患者数が増加し続けていることが報告されています。また、日本では、100人に3~7人の方がうつ病を経験しているとされていますので、誰もがかかる可能性がある身近な病気です。
ただし、抑うつ状態はうつ病だけでなく、双極性障害(躁うつ病)や統合失調症などの疾患でも起こることがあります。いずれの病気の場合も早期の治療が効果的ですから、できるだけ早く専門医を受診して、適切な診断と治療につなげることが重要になります。

うつ病の症状

うつ病の症状憂うつな気持ちが1日中続く、意欲が低下するといった抑うつ状態がある場合、うつ病が疑われます。ただし、同じ症状を起こす疾患がいくつかありますので、一般的にはDSM-IV(ディーエスエム・フォー)の診断基準を用いて診断しています。これは、アメリカ精神医学会(APA)が定めた精神疾患の分類指針です。

以下の、1~9までの症状のうち、1・2のどちらかを含んだ5つ以上の症状が2週間以上続いていること、そして本人が苦痛を感じているか、生活に支障がある場合に、うつ病と診断されます。

  1. 1日中ずっと気分が沈んでいる、ほとんど毎日憂うつな気持ちが続く
  2. 何事にも興味がわかず、楽しむことができない
  3. 理由なく食欲の低下・増加がある、体重が顕著に増減している
  4. 寝付けない、夜中や早朝に目が覚める、寝過ぎてしまう
  5. 動作や話し方が遅い、またはイライラと落ち着きがない
  6. 疲れを感じやすい、気力がわかない
  7. 自分が無価値と感じる、人に迷惑をかけていると感じる
  8. 思考力や集中力が低下している、決断できない
  9. この世から消えてしまいたいと考えてしまう

うつ病の原因

うつ病は脳の機能障害が起こって生じています。脳の神経細胞は、セロトニン・ドーパミン・ノルアドレナリンといった神経伝達物質によって情報をやり取りしています。そしてうつ病は、こうした物質が減少して生じていると考えられています。
気分の落ち込みや意欲の低下といった典型的な症状から、気持ちの問題・心の弱さに原因があると誤解されやすいのですが、気力で治そうとして悪化してしまうケースが多いため注意が必要です。
うつ病は適切な診断と治療が必要な病気です。当院では専門医が丁寧で親身な診療を行っていますので、おかしいなと感じたら気軽にご相談ください。

うつ病の治療

うつ病の治療うつ病は、患者様の状態や経緯、背景、環境、個性などに合わせた治療が不可欠です。
問診では、症状の内容、症状が起こりはじめた時期と推移などをご質問します。また、生活環境やその変化、困っていること、お悩み、不安などについてもしっかりうかがいます。
治療は、休養・心理療法・薬物療法に大きく分けられ、患者様に適した内容を組み合わせて行います。また、他の病気や薬が原因に関わっている場合には、その治療をしっかり行うことも重要です。

休養

さまざまな病気で休養が回復を助けるように、うつ病でも休養が重要になるケースがあります。特に、医師が休むようすすめる場合には、仕事・家事・育児・介護・学校などを思い切って休むようにしてください。そのままでは休みにくい場合には、入院するのも有効です。ただし、休養しない方がいいケースもありますので、医師と相談して決めましょう。

心理療法

医師や心理カウンセラーと対話を重ねて一緒に問題解決の方法を考える治療法です。認知(物事の捉え方)や問題になる行動について改めて考えてみることで、ご自分の思考や感情のパターンや歪みを理解し、気持ちを上手にコントロールできるようにする認知行動療法が主に行われます。ストレスなどの影響を受けやすい場合には有効だとされています。

薬物療法

症状改善だけでなく、再発予防にも薬物療法は役立ちます。
症状に合わせて抗不安薬や睡眠導入剤などを用いることもあります。患者様の状態や症状、お悩みの内容などに合わせた処方を行うことを当院では重視しています。
なお、抗うつ剤は服用をはじめて数週間しないと効果が現れないこともあります。また、症状がなくなっても、再発を防ぐためにはきめ細かく処方量を調整しながらある程度の期間服薬を続ける必要があります。処方されたお薬は、医師の指示を守って服用してください。なお、効果や副作用などに関して少しでも気になることがあれば処方の変更が必要になることがありますので、医師に相談しましょう。

 躁うつ病(双極性障害)

躁うつ病に関しては上記の「うつ病」「抑うつ状態」と症状その他は非常に似ていますが、疾患としては全く別と考えるべきと思います。「躁うつ病か/うつ病か」と言う鑑別に関しては専門家の我々でも数年を要することもあれば、丁寧な問診で早い段階で判断出来ることもあり、 まずは経験を有する精神科医に受診すべき代表的な疾患と言っても過言ではないでしょう。
上記の「うつ病」「うつ状態」等に加える比べると家族歴などご本人よりも以前のご様子が重要である事は多いです。また双極性障害の中には統合失調症と生物学的な病態が近いとされるものもあり、やはり経験と慎重な薬物療法・心理的療法が重要とされております。
他の精神疾患に比べても「薬物療法と心理社会的治療」の調和がとても大切になりますので、うまく生活と向き合うことができれば、健常群(いわゆる精神疾患を有さない方々)と比べても豊かな人生になる要素はたくさん含まれております。
 上記のうつ病と比べ、薬物療法(特に気分安定薬の継続的な内服)の重要性がさらに高く治療の要であり、その薬物療法を支える役割として精神療法や各種制度の利用、就労と自分の相性を見直すなど、様々な対応方法がありその患者さんにとって最良な選択を、慎重に相談を行いながら決めていくことになると思います。

うつ病せよ躁うつ病にせよ、生活の中でどのようにこれらの「心の癖」とどのように向き合うかが養生のポイントかと思います。〇〇病だからといってこのような治療をしなければならない、この治療だけである、などと堅苦しく考えすぎるのも違うストレスの要因となりますので、「明日は今日よりも良くなるのではないか」と前向きに明るく考える方のほうが経過が良いことが多いです。

著しく気分が高揚する躁状態・軽躁状態、そして憂うつで意欲が低下するうつ状態を繰り返す状態です。うつ病と違い、躁状態・軽躁状態とうつ状態という両極端な心理状態を交互に繰り返すことから、「双極性障害」と呼ばれています。躁状態に気付かずに正しい診断が遅れるケースがあるため、専門医の受診が重要です。

躁うつ病の症状

躁とうつとの両極端な症状が起こります。

躁状態・軽躁状態

気分が高揚して、自分はすごいという万能感が強くなります。ほとんど眠らなくても元気で、強い意欲がわいて動き続ける・話し続けることもあります。ただし集中力が続かない状態で興味が移りやすく、何かをやりとげることはできません。また、周囲を疲労困憊させる、無計画に高額な買い物をする、失敗する気がしないことから事故を起こすなどを生じることがあります。病気という自覚がないまま行動して人間関係を壊してしまう、社会的信用を失ってしまう可能性がある状態です。

うつ状態

気分の落ち込み、憂うつといった抑うつ気分と、興味・喜びの喪失が代表的な症状です。睡眠障害、食欲減退または亢進、疲労感、頭痛、便秘、めまいなどを起こすこともよくあります。自分を責めて将来を絶望し、自殺念慮などを起こすこともあります。神経伝達物質の不足などによって起こっているため、単なる気持ちの落ち込みではありません。

無症状の期間

躁うつ病では、躁状態・軽躁状態とうつ状態の間に、躁やうつの症状がない期間があります。適切な治療を続けないとこの無症状期間が徐々に短くなる傾向があり、治療による効果を得にくくなってしまうため注意が必要です。

躁うつ病の治療

治療気分安定薬を使った治療が有効だとされています。血中濃度に合わせた厳格なコントロールが必要な場合もありますので、医師の指示を守って服用してください。
また、症状や状態などによって、抗精神病薬、抗うつ薬、睡眠薬などを組み合わせることもあります。ただし、抗うつ薬は症状の悪化につながることもあるので処方には注意が必要です。こうしたことから、専門医の診察を受ける重要性が高い疾患です。

また、認知行動療法をはじめとした心理療法も重要です。認知行動療法では、医師やカウンセラーとの対話を通じて認知(物事の捉え方)や問題になる行動について改めて考え、ご自分の思考や感情のパターンや歪みを理解して、気持ちを上手にコントロールできるように導く療法です。

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